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宅配毒物自殺事件

送り主「1瓶2000円で購入」

宅配青酸 練馬の主婦が証言

1998.12.28 更新

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 東京都杉並区の女性(24)が、宅配便で届いたシアン化カリウム(青酸カリ)とみられる毒物を飲んで自殺した事件で、送り主とされる札幌市の男性(27)から毒物を購入し、無事が確認された東京都内の主婦が27日、朝日新聞社の取材に応じ、男性の青酸カリ入手について「会社勤めをしていたころに1瓶2000円で買った、と話していた」と語った。この主婦は半年前から男性と交流していたといい、男性の銀行口座に代金を振り込んだほかの6人のうち2人と交流があることも明かした。警視庁捜査一課と高井戸署もすでに主婦から事情聴取をしており、毒物の入手先や送付先の解明を進める。また男性は昨年2月、札幌市内の薬品卸会社で青酸カリ5グラムを660円で購入していたことが、捜査一課などの調べでわかった。

 ●購入女性「青酸カリはお守り」
 ●宅配毒物は青酸カリ

 主婦は練馬区に住む29歳で、男性の銀行口座に代金を振り込んでいた7人の中の1人だ。

 主婦によると、送り主の男性とは今年6月ごろ、インターネットを通じて知り合ったという。男性が12月15日に札幌市の自宅で自殺する前の11月末まで、男性と電子メールを交換したり、電話したりしていた。

 男性はかつて北海道の会社に勤めていたが、青酸カリを扱うことのできる資格を持っていたという。青酸カリの入手方法について、男性は主婦に対し「この資格があるので買えた。1瓶2000円で買った。これだけで約1000人分の致死量に相当する」と話したとされる。だが、どこから、何本買ったかなどは聞いていないという。

 警視庁のこれまでの調べでは、宅配が確認された青酸入りカプセルは6錠1セット3万円か5万円で売買されていた。主婦に対して男性は、販売先の人数について「何人かに送ったが、だれも飲んでいない」と話したという。また男性は3万円と5万円の値段について「犯罪に使われないように高くした」とも説明したという。

 また主婦は、今回の事件で男性への代金支払いが明らかになっているほかの6人のうち2人と交流があったと話した。主婦がインターネット上に開設した自殺がらみのホームページを通じてだった、という。

 8月に代金を振り込んで青酸カリ入りカプセル六錠を購入し、飲もうとしたところを父親に止められた練馬区の20代の女性と、毒物を受け取っていた埼玉県内の男性の2人で、いずれもこのホームページを見ていた。

 このうち、服毒を直前に止められた練馬区の女性に対しては、男性が青酸カリを売っていることを教えた。さらに、この女性は同じことを自殺した杉並区の女性に教え、購入の仲介をしたという。主婦は杉並区の女性について「友人の練馬区の女性から聞いて、名前だけは知っている」と話している。

 主婦は自殺する目的で8月上旬、男性から青酸入りカプセル6錠を3万円で買った。このときは自殺を思いとどまったが、今度は友人と一緒に自殺しようと考えて8月下旬、友人の分として新たに6錠を5万円で購入した。このときも自殺は実行しなかった。

 主婦はこの12錠のうち6錠をいまも持っている。警視庁に任意提出を求められているが、拒んでいる。残りの6錠は11月末、自分で買ったカプセルを父親に取り上げられた練馬区の女性に5000円で渡したという。これはすでに警視庁に提出されている。

■「青酸カリはお守り」
 購入女性「いつでも死ねるからもう少し頑張ろうと」 

 「青酸カリは生きるための『お守り』です」。札幌市の男性から毒物を送ってもらっていたという主婦は、朝日新聞社の取材にそう語り、「青酸カリを積極的に売っていたのではない」と男性をかばった。インターネットを通じて広がった「自殺願望」を抱えた人たちの輪。だが、いやしの場になるべきその仮想空間は、死への跳躍台にもなった。ネット社会がはらむ危うさがくっきりと見えた。

 主婦が男性と知り合ったのは今年6月ごろ。インターネットを通じてだった。主婦は自分で「安楽死狂会」などというホームページを開いていた。7月にネット上に「ドクター・キリコ診察室」を開いたのは主婦自身だという。その際に「薬関係に詳しいので、『診察室』専属のドクターになってほしい」と男性に頼み、引き受けてもらった。その後も男性が自殺するまで連絡をとり続け、「電子メールの交換は80通以上。電話でも何度かしゃべった」という。

 男性が青酸カリを売っていたことについて、主婦は「男性は『診察室』で青酸カリを売るなどとほのめかしたことはない」といい、「『失恋したから死にたいとか、受験に失敗したから死にたい、などという人には青酸カリを渡さない』というポリシーをもっていた」と話す。病状や心情を詳しく聞き、カウンセリングや薬ではどうにもならないと思った人にだけ売っていたという。

 主婦は8月に2度、男性から青酸カリを購入。「最初は偽物ではないかと疑いました。でも、彼は律義で、『薬事法違反で捕まってもいいけれど、詐欺では捕まりたくない』と言っていました」主婦は本気で自殺するつもりだったが、いざ手にすると、「いつでも死ねるんだから、もう少しがんばってみよう」と開き直れたという。それからは、青酸カリを「お守り」代わりにもっていると語る。事件発覚後も、警察の再三の提出要請を拒んできた。

 男性も「あれは不思議な『お守り』なんだ。飲んでもらうためではなく、生きてもらうために渡したんだ」と語り、「青酸カリの品質は5年しか保証できないけれど、5年後に(主婦の青酸カリが)僕のところに返ってくるのを待っているよ。そしたらまた、新しい『お守り』を送るよ。お金はいらない」という約束をしていたという。「それが、杉並の女性が本当に飲んでしまったことを知り、ショックと罪悪感で自らの命を絶ったのだと思う」と主婦は男性の服毒死を分析した。

■空想に現実感持たせたのか

 精神科医、香山リカさんの話 今回の事件で亡くなった人たちにとって、当初はインターネットに書き込むこと自体がある種の歯止めになっていたはずだ。リアルに書けば書くほど、死への衝動から解放されていく面がある。しかし、ただの空想ではいずれもの足りなさが残ってしまう。その空想にリアリティーを持たせてくれるのが薬だろう。それによって、自殺への衝動からぎりぎりのところで解放される。それを「お守り」と表現したのだろう。少年が、ナイフを持っていれば使わないという心理とも共通するが、「現実の死」へのリアルな感覚があってのこととは言えないと思う。

■宅配毒物は青酸カリ

 警視庁捜査一課と高井戸署は28日、札幌市の男性(27)が、自殺した東京都杉並区の女性(24)に宅配便で送りつけた薬物をシアン化カリウム(青酸カリ)と断定した。ほかの人に送られた毒物も青酸カリとみられ、鑑定を進めている。また、毒物が入っていた容器は、アルミ製容器であることがわかった。

 調べでは、容器は長さ7センチ、直径2.5センチの円筒形のマッチ入れ。ねじ込み式のふたがついており、重さは約10グラム程度だった。男性は、毒物を薬物用のカプセルに詰めた後、この容器に6錠ずつ詰め込んで、杉並区の女性らに送ったとみられる。

     ◇     ◇

 毒物の送り主とされる男性は、勤め先に提出した履歴書の中で、「特定化学物質等作業主任者」と「有機溶剤作業主任者」の資格を取得していると書いていた。いずれも労働安全衛生法に基づき、関係規則によると「特定化学物質等作業主任者」は青酸カリを取り扱うことができる。

(以上、朝日新聞12月28日付夕刊)

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 東京・杉並区の女性が宅配便で届いた毒物を飲んで自殺した事件は、毒物の送り主がインターネット上で「草壁竜次」と名乗っていた男性とわかりました。この男性は「ドクター・キリコの診察室」という自殺や毒物に関するホームページを開設していました。
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<これまでの主な記事>

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 「匿名通信」渦巻く賛否 ネット利用者に波紋
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12月26日付朝刊
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